ポーラライツ製1:350 Scale 初代Enterprise
■2013年の定期展示会の際、試験的にQRコードを使った説明をしたときの原稿を元に復刻しました。
■展示作品について
ポーラライツ製1:350スケールの、 初代テレビシリーズに登場する”エンタープライズ”です。
マット・ジェフリーズがデザインした初代TVシリーズのエンタープライズは、「流線型の銀色ロケット」や「空飛ぶ円盤」と言う当時のSF宇宙船の常識を覆す斬新な形と、画面奥から手前にエンタープライズが一瞬で飛び去る印象的なオープニングで視聴者に強い印象を残し、SF宇宙船のアイコンとなりました。
撮影用に製作された全長11フィートの大型模型は、舷窓点灯とビーコンライト点滅の電飾、ワープナセル先端プラズマドーム内のファン回転とクリスマスツリーライトによる多色点滅電飾を内蔵した大掛かりなもので、TV放送終了後はスミソニアン航空宇宙博物館に寄贈され、現在もライトフライヤーやアポロ11号と共に展示されています。
しかし放映時期が古い事もあり良いキットに恵まれず、SFモデラーは長い間AMT製1:650スケールの簡単なキットで我慢するしかありませんでした。
2012年冬に発売されたポーラライツの1:350スケールTOSエンタープライズは、スタートレック研究家ゲリー・カーをアドバイザーに迎え同氏の考証を完璧に再現した、SFモデラーの長年の不満を一気に解消する決定版キットです。
キット発売と同時にLEDを90個以上とモーター2個を使ったフル電飾キット、エッチンググリルキットなどのグレードアップオプションも発売され、これらの組み合わせでパイロット版から第3シーズンの最終版まですべてのバリエーションが制作可能となります。
今回はスタンダードキットと電飾キット、エッチンググリルキット、更にパラグラフィックスの別売りエッチングディテールセットとアズテックのウインドウペイントマスクを使い、第2シーズンに登場したU.S.S.エンタープライズの再現を目指しました。
エンタープライズは設定全長が289mなので、1:350スケールでも全長83cmと大型ですが、各船体とパイロン内部にはがっしりした隔壁がモールドされて、しっかり接着すれば強度的に全く不安の無い模型が出来上がります。
●製作時の手ほどき
製作に当たっては、まずこの手の電飾モデルでは光漏れ対策を十分に行う必要があります。
まず組立前に船体パーツの内側に、ブラックサーフェーサーを厚めに吹いて完全に光漏れを止め、その上からホワイトサーフェーサーを塗装して、LED光が内部で均等に拡散されるようにしました。
また舷窓はクリアパーツ化されていますが、船体と窓パーツの隙間が気になったので、隙間を低粘度瞬間接着剤で埋めてヤスリで仕上げ、完全に船体と面一にしてからマスキング塗装しました。
次に電飾用のLEDを船体内側に取り付けます。
キットではLEDはテープ状フレキシブル基板に3個ずつ実装され、基板裏の両面接着テープで船体に取り付けるようになっていますが、完成するとこれらのLEDにはアクセス不能となりますので、両面テープの上から更にホットグル―ガンでLEDテープと配線ケーブルを船体にしっかりと固定しました。
これを怠ると後々振動でケーブルが引っ張られ、接点がはがれて点灯不能などの事故につながります。
第一船体の上部中央には物語の舞台のブリッジが組み込まれます。
ブリッジは10円玉サイズのワンピース部品ですが、電飾キットにはクリアプラ成型の同一部品が入っているので、うまくマスキング塗装すればライトアップが可能です。
今回は更にパラグラフィックスの社外エッチングパーツを組込んでディテールアップしました。
第一船体内のLEDでコンソールのスイッチパネルとディスプレイ、そして正面の大型スクリーンが光ります。
大型スクリーンには付属のデカールを使い敵クリンゴン艦の映像が映るようにしました。
またせっかくのブリッジが無人では寂しいので、各コンソールの前にゴマ粒ほどの椅子をブラ棒で自作し、フジミの1:350艦船用フィギュアを改造して、おなじみのクルーを乗艦させてあります。
カーク船長、スポック、ドクターマッコイ、ウーラ中尉、チェコフ、ミスターカトウ、スコットなど、メンバー勢揃いですが小さすぎてよく分りません。
ブリッジと船体との位置関係については、昔からブリッジ正面と船体正面の不一致について議論があります。
撮影モデル図面と撮影セット図面の矛盾から、そのままではブリッジの正面が船体正面から大きく左にずれてしまうのです。
この問題ついてキットはモデラーの判断で、どちらでも好みのポジション(左向きと正面向き)で作れるようになっていますが、今回は左にシフトしたブリッジとしました。少し不思議な感じですね。
第二船体の組立は、基本的に第一船体と同様に光漏れ防止の作業から始まります。
第二船体の前部にはメインの電源基板が組み込まれ、ここに展示スタンド内を経由して外部から電源ラインがコネクター接続されるのですが、今回は完成後のモデルの持ち運びも考えたので、スタンドとワープナセルを後から取り外し式にする必要がありました。
このためには電源コネクターの着脱を完成後も行えるようにしなくてはなりません。
そこで船体前部のデフレクターシールドとその基部を加工して、取り外し可能なメンテナンスハッチに仕立てました。
また第二船体後部にはエンタープライズが搭載するシャトルクラフトの格納と発着を行うシャトルベイがあり、このモデルでも見せ場の一つなのですが、船体と中に組み込むシャトルベイのクリアランスがかなりタイトなので十分な仮組みと擦り合わせが必要です。
特に今回のように電飾を組み込む場合、クリアランスの無いところにLEDを押し込んだり配線コードを通したりする必要があるので、必要に応じて配線コードの通路の削り込みやLEDの削り込みを行い何とか納めました。この部分は完成するとなかなか良い雰囲気になります。
またシャトルベイの床下にはネオジム磁石を取り付け、シャトルクラフトの内部にベアリング球を仕込むことでシャトルクラフトを取り外し式にしました。
シャトルクラフトは4パーツで構成される小さなモデルですが、細部まで良く出来ています。
シャトル後部のランディングギアが再現されていなかったので、洋白線と極細プラパイプで自作しました。
最後にワープナセルの工作です。
ワープナセルの先端のバサードコレクタードーム(プラズマドーム)の電飾は、このモデルの見せ場です。
外側のクリアドームの内側にタービンファンを模したもう一つのクリアドームが配置され、これがナセル内のモーターとギアボックスでゆっくりと回転すると同時に、ドーム基部には円形LED基板が取り付けられ、その上の10個のLEDがランダムに点滅を繰り返して、11フィートモデルの電飾ギミックを再現します。
モデルはLEDの上にクリスマスツリーライトのミニチュアが5個と、それより小さいクリア球5個が交互に配置される設計ですが、仮組みして試験点灯させたところクリスマスツリー型ライトの方は十分な明るさがありますが、クリア球の発光が弱く感じられたので、10個すべてにクリスマスツリーライト型パーツを取り付けるよう改造し、更に撮影モデル同様ライト取付け部の基部に砕いたアクリル製ミラーの破片を散りばめました。
ライト型パーツの変更は成功で、非常にTVでのイメージに近い発光が得られたと思います。
船体の塗装については、ゲリー・カーの調査結果から実際の11フィート模型の色は零戦の明灰緑色(タミヤのXF-12)をさらに白で薄くした色に近い事が分っていますが、TVではブルーバック合成の多用から全体的に色彩がややブルー寄りに変化しており、エンタープライズも緑と言うよりブルーグレイの印象が強くなっていました。
そこで今回はXF-12を基準に少しずつブルーグレイを混ぜて、自分なりにTVのイメージに近づけてみました。
また第2シーズンに入る前にエンタープライズの模型にはかなり大掛かりな汚し塗装が加えられ、また第一船体表面には製図用鉛筆を使ってシールドグリッドが書き込まれていたので、第一船体を中心に全体的にダークグレイ、ダークグリーン、フラットブラック、サンドイエローなどで汚し塗装を行いました。
モデルが大きいだけに単色の仕上げではのっぺりと単調になりますので、汚し塗装は良いアクセントになったと思います。